2022年OOH 5つのトレンド予測まとめ~戦略編~

 OOHとは、「Out of Home(アウト・オブ・ホーム)」の略で、看板、屋外広告、交通広告など、家の外で体験できる広告。日常生活の中でメッセージを繰り返し訴求することが得意なメディアで、街の景観をつくる影響力も持ちます。

 これからのOOHはどうなるのでしょうか。2021年を振り返りながら、2022年最新の事例も追いかけ、活用方法を探ります。
 後編は、「戦略編」と題し、広告出稿・展開方法などを中心に、今後のOOHにとって注目の5つのキーワードを紹介しながら見ていきます!
 ※前編はこちら:2022年OOH 5つのトレンド予測まとめ~クリエイティブ編~ 
 なお近年挙げられている課題「効果測定」と「SNSでの拡散を狙う」については、全てのOOHの共通事項として、この2つ以外のキーワードに注目しています。

▼INDEX
①都市部で「ジャック化」にともなう競争激化
②外照式看板・電柱広告など「コスパ追求」
③数打ちゃ当たる!? 「質より量」
④クラウドファンディング、NFTなど「新しい出稿方法」
⑤癒しや非接触など「withコロナ」を反映するコピー・デザイン
まとめ

 


 

①都市部で「ジャック化」にともなう競争激化

 最近の都市部において、駅前やエキナカなどに集中して展開する「広告ジャック」が目立ちます。まさに街や車内の「場の景観を掌握する」といった迫力があり、メディアやSNSも頻繁に取り上げます。
 ある広告代理店によると、広告主は特に「渋谷」駅近隣媒体の価値について重きを置いているといいます。一部人気の場所(媒体)では、時期によって、複数の広告主による枠の争奪戦が発生。「基本早いもの順だが、セットパックを契約の場合、優先させていただくことがある」とのことです。2022年2月現在、コロナ禍で人流減少により、広告出稿に落ち着きはありますが、昨年から見る傾向や長期的予測として、ジャック化は進んでいくでしょう。
 また渋谷以外の都市を見ると、新宿駅では立体造形物などユニークでインパクトがある特殊OOHが目立ちます。

●2021年、スシローによる渋谷ジャック。2020年もコロナ禍にも関わらずジャックし話題になりました。
【あきんどスシロー】渋谷で大規模広告を展開、SHIBUYA109・街頭フラッグ・駅地下サイネージをジャック

●内装、外装全て丸ごと電車1編成等をジャック! する方法もあります。
【Twitter】山手線のオンラインゲーム「原神」のジャック車両

●ハイブランドがお互いをジャックし合う企画。街ではありませんが、ブランドという価値をジャック。
【Twitter】バレンシアガとグッチの「ザ ハッカー プロジェクト」のディスプレイ

●新宿駅のメトロプロムナードの柱を、アフロとコートで装飾しました。
【フジテレビ】新宿駅に「ミステリと言う勿れ」の交通広告を展開、アフロの「巨大整くん」登場

 


 

②外照式看板・電柱広告など「コスパ追求」

 時勢もあり広告予算を見直す企業も増え、「コスパ追求」ができる広告に注目しています。
 新聞「総合報道」が実施したアンケ―トによると、看板関連企業が今年増えると予想されるLEDを使って製作する領域は、外照式サインが過半数でした。初期コストはもちろんランニングコストも考え、内照式から外照式にする広告主が増えています。
 また電柱広告は、広告料が1日約100円とローコスト。道案内や地域に向けた広告が多いですが、アイデア次第でSNSでバズり広範囲への拡散例もあり、まさに「コスパの良い」広告媒体として期待できます。

●2020年設置の看板ですが、2021年も記事に多くのアクセスがあり、注目度の高い外照式看板です。
【東京かねふく】新宿駅東口に外照式看板を掲出

●「第12回東京屋外広告コンクール」の第3部門の東京都知事賞受賞作品。ぜひ動画でご覧ください。
【Twitter】「潮見Skippers’」の電柱広告。広告に描かれたハンバーガーが、店舗に近づくほど完成していく……

 


 

③数打ちゃ当たる!? 「質より量」

 「ジャック化」と「コスパ追求」の流れを受けて、両方追求できる手段として「質より量」な広告展開が人気です。
 近年は屋上広告塔や袖看板など「大型の広告物を1基構えよう!」というよりも、ポスタータイプの広告物を数十、数百枚と局地的に貼りまくる展開が人気のようです。
 看板落下などの安全管理面を考えても、大きくて重いものより軽量の広告物の方が、よりリスクを避けられると言えるでしょう。

●渋谷の街をポスターサイズの広告でジャックするプランが人気です。
【講談社】漫画「ブルーロック」新刊発売にあわせ渋谷をジャック

●東京駅は各地から人が往来する場所。47都道府県をデザインした広告例もあります。
【Twitter】東京駅のA.B.C-Zのベストアルバム発売の広告。メンバーカラーになった各都道府県のシルエットが背景で、ご当地にちなんだ異なるメッセージ入り

●OOHの写真を投稿すると、本人からのリプライが来るなど特典付きの企画もあります
【Twitter】山下智久さんの写真集「Circle」の広告が、渋谷の様々な場所にありました。#山P祭り

 


 

④クラウドファンディング、NFTなど「新しい出稿方法」

 資金調達の方法が多様化し、OOHの出稿方法にも反映されています。
 クラウドファンディングの例では、電柱広告に人気絵本作品のデザインを使用できるという企画もありました。また同じく電柱広告のクラウドファンディングで、ご当地グルメの広告掲出を目的に、目標額の415%(総支援金額21万6000円、総支援者50人)を達成した事例もあります。
 今年に入り、NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)を活用した屋外広告枠を販売する実証実験がスタート。応援広告ブームの事例からヒントを得ているそうです。広告を個人で購入しやすくなり、個人も収益化できる「C2C」の可能性を探っています。今まで個々人が広告を出稿したい場合、代表者にお金を持ち寄って、代理店などに支払う、という方法でした。今回のNFTは、一人ずつお金を預けられるロックという仕組みがあり、透明性が保たれます。

●クラウドファンディングでご当地グルメの電柱広告を設置しました。
【古河の七福カレープロジェクト】茨城県のご当地グルメ「古河の七福カレーめん」の電柱広告を古河市内に設置

●絵画のように屋外広告枠を個人間でやり取りする日は近いかもしれません。
【CoinPost】ブロックチェーン技術を活用し、屋外広告枠を販売する実証実験を開始

 


 

⑤癒しや非接触など「withコロナ」を反映するコピー・デザイン

 コロナ禍で人々は心身共に疲弊し、SNSでの誹謗中傷や様々な事件などの悲しいニュースが、心に暗い影を落としています。そんな時勢を反映するように「癒し」をキーワードにして広告出稿する企業も増えています。
 またwithコロナ、新しい生活様式を反映したサービスが台頭し、テレワーク関連のキーワードを打ち出した広告も増加。こちらは「出社」している人たちへの目に留まるよう、オフィス街の最寄り駅や、タクシーなどの交通広告展開が中心です。

●森永乳業の広告展開。全国の動物園の人気者たちがトレインジャックしました。
【森永乳業】電車の中を癒やしの空間に変える「深い癒やしトレイン」登場

●駅構内・電車の交通広告や、タクシー・エレベーターでメタバース(バーチャル空間)のサービスを訴求しました。
【oVice】5秒出社をメッセージとする屋外広告を掲出

 


 

まとめ

 より訴求力のあるOOHをより低コストで。これを叶える方法として街にポスターを貼りまくる「質より量の広告ジャック」は今後も続いていくと見られます。
 また外照式看板や電柱広告などは製作、管理費を抑えながらアイデア次第では大きな効果を期待できます。
 加えて出稿方法も拡大。OOHは限られた大企業のもののみならず、これまで以上に個人などが気軽に取り引きができるようになってくるでしょう。
 新型コロナの影響はまだまだ続きますが、「元に戻る」と言うより「時勢を反映した」製品、サービスが生まれ、広告もそれに伴ったものになってくると予想されます。

 ぜひ前編のクリエイティブ編も併せてご覧ください。

 


おまけ:OOH歴史

 OOHはいつからあるのでしょうか……。現存する世界最古の屋外広告は、紀元前1000年頃の古代エジプトで貼りだされた、B5判大のパピルス紙に書かれた広告だそうです。広告内容は逃げた奴隷を探す指名手配?的なものだったといいます。また紀元前136年にはエジプトで、「ロゼッタ・ストーン」と呼ばれる標石が街角に建てられました。内容は王の偉業を称えたものです。
 日本で現存する最初の屋外広告は、平安京に遷都後の旧平城京に立てられた、推定828年のものの木簡の屋外立て札と言われています。内容は「馬が逃げたので捜してください」というこちらも指名手配?的なもの。困ったら貼り紙! という感覚は古今東西世界共通だったのかもしれませんね。
 また現在は当たり前になっているシートを使った光る看板について。最古の印刷広告は1480年頃、イギリスのロンドンの教会に貼られたもののようです。光る看板(電飾看板)は、1918年に日本で最初のネオン広告が誕生。夜の街を彩っていきました。そのうち蛍光灯が使われるようになり、現在はLEDを使用したものが多くなっています。

参照:屋外広告の知識 第四次改訂版 デザイン編(出版:株式会社ぎょうせい)

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