【特別企画】2025年 業界の歩みと未来 団体代表者に聞く現場の声

 今年度は、緩やかな回復基調が続くと予想されていた日本経済。財務省が発表した「令和7年度政府経済見通しについて」によると、総合経済対策の効果が下支えとなり、個人消費の増加や企業の設備投資の堅調な動きが継続するなど、民間需要主導の経済成長が期待されていた。
 ところが、ふたを開けてみると、物価上昇による実質賃金の低下や節約志向の強まりを背景に、個人消費の伸びは鈍化した。企業の設備投資は、人手不足、デジタル化、脱炭素などを理由に拡大傾向を示しているものの、企業倒産件数は人手不足や物価高を背景に高水準で推移しており、小規模企業の経営体力には懸念が生じている。
 本企画では、サイン・ディスプレイ業界を取り巻く状況をより立体的に把握するため、関連団体への取材を実施。2025年が業界にとってどのような一年であったのか、景況感はどう変化したのかを探る。全国規模で活動する主要団体を対象に、年間を通じて業界に影響を与えた出来事や、各団体が取り組んだ施策、さらには今後注目されるトレンドを聞き、業界団体として今後どのような役割を果たしていくべきか、各代表者の視点から語ってもらった。

※本記事は、POPEYE No.280(2025年12月15日発行)に掲載された特集Ⅱを当サイト向けに再編集したものです。
また、同誌21頁「
一社団法人 サインの森」様の記載に誤りがありました。
誤)
■FAX: 正)■FAX:03-6206-4986
読者の皆様ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。

・一般社団法人 日本屋外広告業団体連合会(日広連)

会長 波田英次 氏

高騰する資材コストと厳しい経営環境の現状
会員向けの保険制度や各種支援策の情報提供に注力
①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 物価や資材の高騰は依然として続いているため、景況は厳しい状況にあると感じています。エネルギー価格や物流コストの上昇も拍車をかけており、経営環境の不透明さが増しています。大阪万博の仕事を受注した組合員も一定数いたと聞いていますので、一時的には景況が良かったのではないかと感じています。このような特別なイベントとは別に、インバウンドを対象にした広告やデジタルサイネージには需要があり、多く出稿されているようですが、会員企業がこれに対応し、受注の増加につなげているかについては不明です。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 小委員会を立ち上げ、受講資格などの検討を始めました。制度や講習内容については関係機関とも連携しながら、現場の実態を反映させた実効性のあるものとなるよう調整を進めています。当面は、講習の実施に向けた準備を主要な事業として位置付けたいと考えています。
 また、2028年に愛知で開催される技能五輪国際大会を視野に入れ、2026年に上海で開催される技能五輪国際大会での上位入賞を目指し、選手育成のための分科会を立ち上げ、選手の訓練指導に当たっています。指導体制の強化や技術向上のためのカリキュラム整備にも取り組み、競技力向上に向けた環境づくりを進めています。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 依然として「映え」が重視される中でも、デジタルサイネージにおいては、人や物の動きに反応するインタラクティブな内容のサイネージに成長が見込まれると考えています。特に、センサーやカメラ、AI技術などを活用した双方向型の広告コンテンツは、利用者の関心を引きやすく、商業施設や公共空間などでの活用が進んでいます。視認性や話題性に加え、参加型の演出によって印象に残りやすいという点でも、広告主からの注目が高まっているようです。

 また、リアルタイムの情報発信や個別対応が可能になることで、従来の一方向的な広告媒体とは異なる新たな価値が生まれています。今後の技術進化に伴って表現手法もさらに多様化し、体験型プロモーションや地域活性化イベントとの連携など、幅広い分野での展開が期待されています。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 看板資材が軒並み値上がりしているものの、価格に転嫁できないというジレンマを抱えていると考えています。取引先との関係性や業界全体の価格競争の影響もあり、値上げ交渉が難しい状況です。
 円安傾向が続いていることもあり、従来は外国人労働者を充てていた部門において人手不足が生じていますが、現在は売り手市場であるため、人材を募集しても応募が少ない状況にあると思います。さらに、大型ポスターなどの従来型の屋外広告物については需要が減少しており、それに伴って受注量も減っていると感じています。これについては、デジタル広告への移行が進んでいることも背景にあると考えられます。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 組合加入を促進することによって、傘下組合の活動や運営のための資金力を高めることが必要だと考えています。組織としての基盤を強化することにより、事業の安定性や継続性が確保され、より計画的かつ効果的な取り組みが可能になります。こうした組織率と資金力の向上によって、関係省庁との連携や政策提言の場での発言力が高まり、会員サービスの充実にもつながると考えています。

 当会の活動としては、新技術に関する研修会などの教育分野をはじめ、経営に役立つ保険制度や各種支援策の情報提供にも力を入れていきたいと考えています。加えて、会員企業のニーズを丁寧に把握し、それに応じた柔軟な支援体制を整備していくことで、より実効性のある活動を展開していきたいと考えています。

■事務局:〒130-0014 東京都墨田区亀沢1-17-14 屋外広告会館 ■TEL:03-3626-2231 ■FAX:03-3626-2255

 

・公益社団法人 日本サイン協会 (日サ協)

会長 梅原敏裕 氏

展示会・イベント事業の受注が活発に推移
成長を続けるデジタルサイネージ市場が業界トレンド
①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 個人的に印象に残っていることとして、今年は大阪・関西万博をはじめ、阪神タイガース2軍ファーム施設(ゼロカーボンベースボールパーク)やジャングリア沖縄の開業、長崎スタジアムシティの開業1周年などがあります。
 昨年対比はやや横ばいである中、インバウンドの影響もあり地域によって差がありますが、観光地は賑わう反面、廃業する業者が出ていることも事実です。しかし、展示やイベント関係も活発に動いており、特にデジタルサイネージの取り扱い業者はかなり忙しいようです。
 今後、大阪・関西万博跡地の隣接地には2030年秋に開業予定のIR事業や、現在は土地誘致中ですが、2030年開業を目指すプロ野球球団日本ハムファイターズの2軍施設など、まちづくりも兼ねた一大プロジェクトが控えており、多くの受注が見込まれるそうです。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 日本屋外広告業団体連合会とは引き続き「屋外広告物点検技能講習」の共催事業を行っており、今年も官民合同連絡会議に出席することで、その重要性を啓発しました。
協会内では会員実態調査の実施や広報誌「NEOS」の発行により、業界内や会員同士の情報交換・交流の場を保持しています。また、協会内だけでなく、サイン&ディスプレイ関係4団体(サインデザイン協会、日本ディスプレイ業団体連合会、日本屋外広告業団体連合会、日本サイン協会)でも定期連絡会を通じて各団体の活動報告を共有し、共同事業の模索なども話し合われています。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 昨年同様、駅構内や街の至る所でデジタルサイネージの浸透が進んでいます。デジタル技術の進歩にさらに拍車がかかり、その種類や用途も多様化しています。屋内外の商業施設や公共施設において、デジタルサイネージ分野は大小問わず、今後も成長が期待されます。我々も今後この分野に進出することが課題のひとつだと感じています。挑戦のハードルは高いですが、サイン・ディスプレイ業界の展示会「SIGN EXPO」などでもデジタルサイネージ関連の製品やサービスを取り扱う出展社が増えており、学べるチャンスは多いと考えています。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 やはり、職人の高齢化や若年層の減少に伴う人手不足が大きな課題だと考えます。さらに、資材価格の高騰に対して販売価格の改定が追いつかず、結果として利益率が低下している点も問題です。今年の夏は特に顕著でしたが、年々暑さが厳しさを増す中、酷暑下での現場作業における安全面への配慮も、今後ますます重要になると思われます。また、道頓堀での火災事故については、原因は現在も調査中ではあるものの、屋外広告に使用された素材や設置許可申請の有無が議論を呼んでおり、今後の課題として浮上する可能性があります。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 2026年7月15日は国産ネオンサインが灯火して100周年ということもあり、記念事業として書籍の発行およびネオンアート展の開催を計画しています。近頃ではLEDが主流となり、ガラス管を使った本物のネオンが減ってきていますが、ネオンの曲げは高い技術を要する手仕事です。日本が誇る貴重なものづくり文化の一つとして広く知ってもらえるよう、100周年事業に限らず、ネオン工事技術者試験やネオン管技工士認定試験を引き続き実施することで、ネオンを作る人・灯ったネオンを守る人など、多方面からネオンに関わる活動を行っていきたいと思います。また、屋外広告物点検技能講習については、開始から10年となる節目の年でもあります。テキストの改訂や講習内容の一部変更を行うことで、さらに講習の重要性を高めていきたいと考えます。

■事務局:〒105-0013 東京都港区浜松町1-21-4 港ビル5階 ■TEL:03-3437-1526 ■FAX:03-5776-1321



・一般社団法人 サインの森

会長 大澤恵司 氏

広告需要の回復と規制強化の間で揺れるサイン業界
専門職の価値を社会へ発信する土台づくりが重要
①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 今年のサイン業界では、「依頼は増えているのに対応が難しい」という声が多く聞かれました。コロナ禍を経て人流が戻り、新規案件や改修の相談が増加し、現場では景気回復を感じる場面もある一方で、屋外広告に関しては景気よりも広告物規制の厳格化が課題となっています。社名表示のように必要性の高い依頼でも、景観条例により実現が難しくなるケースが増え、“出したいのに出せない”という現実を、事業者と依頼主が共に抱える状況が続いています。
 そのような中でも、看板に携わる私たちは依頼主に向き合い、地域ルールや広告物規制を丁寧に説明しながら、一緒に理解を深めてきました。たとえ仕事につながらない場面でも誠実に対応する姿勢が信頼を生み、法令を尊重する依頼主も増えています。制度や社会意識が変化する今、「どう伝え、どう支えるか」がより重要になっています。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 当団体が実施するサインスクールでは、基礎・デザインに加え、シート貼り施工や電気工事士資格に対応した実習を含む7つのコースを整備しました。小規模事業者でも人材を育てられる“実践の学び場”として、未経験者が早期に活躍できる環境づくりを目指しています。また、経済産業省・中小企業庁と、RESAS(地域経済分析システム)の活用について意見交換を行いました。人口や人流を地図で可視化できるRESASは、 街の動きと看板需要を“感覚ではなく数値”で捉えられるツールで、営業や提案の根拠づくりにも役立つため、今後の活用が期待されます。
 さらに、毎月の例会では、会員が実務で直面するテーマを取り上げ、情報と知識を共有してきました。学ぶ → 活かす → 共有 → 標準化、この循環が業界の“共通言語”となり、長期的な底上げにつながると感じています。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 RESASなどにより、まちの動きを数値で把握できるようになったことで、看板を“点”ではなく“流れ”で捉える視点が広がっています。そのなかで注目されているのが、デジタルサイネージです。時間帯や場所に応じて表示内容を変え、人流データと組み合わせることで効果的に運用できるようになってきました。一方、成長領域として欠かせないのが 点検・補修などの保全です。SDGsの観点から「看板を安全に長く使いたい」という要望が増え、定期診断やメンテナンスの価値が見直されています。また、生成AIの活用も広がっています。提案資料やデザイン検討への利用が進み、これまで施工が主であった会社でも、デザインの提案資料を自ら作成できるところまで成長しています。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 看板業界が抱える課題は、担い手不足と専門性が正しく評価されないことです。看板の仕事は多岐にわたり、本来は高度な専門性が必要ですが、現場では「何でも屋」と見られがちで、対価や評価に十分反映されていません。また、職人の高齢化により技術が属人化し、体系的に学べる場が少ないため、若手育成が難しい状況です。今後は、知識の標準化、専門性に見合う評価、そして若手が育つ働き方が不可欠です。“多能な専門職”の価値を社会に伝え、次世代へ技術を手渡せる土台づくりが求められています。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 次の世代へ手渡したい“2つの学び” です。ひとつは、若い世代に向けた 経営・マネジメントの学び。協力会社との関係づくり、人の育て方など、現場では触れづらい視点を少しずつ共有していきたいと考えています。将来、チームを支える立場になったときに確かな力となる学びです。
 もうひとつは、標準施工マニュアルの整備。“勘と経験”だけに頼らず、誰もが同じ基準で安全にたどり着ける 「正しい施工」 を形にする取り組みです。小さな一歩かもしれませんが、学びが自然に循環し、次世代が働きやすい未来につながるように、歩みを進めていきたいと思います。

■事務局:〒101-0047 東京都千代田区内神田3丁目2−1 喜助内神田3丁目ビル 402 
■TEL:03-3255-2825  ■FAX:03-6206-4986

関連記事一覧