【太陽工業】万博サウナ「太陽のつぼみ」 膜構造建築物の新境地を開拓

太陽工業㈱は、4月13日から10月13日まで開催されている大阪・関西万博 グリーンワールドで、万博サウナ「太陽のつぼみ」を運営している。
同施設は1日70名という定員に対し、開幕から大きな反響を呼び、時間帯によっては倍率が30〜50倍にものぼるほど人気を博している。
総合報道では、万博初の「サウナ」というコンテンツを、太陽工業が得意とする「膜」素材にも焦点を当てた取材を行った。
◼︎「太陽のつぼみ」概要 |
「太陽のつぼみ」の躯体は、最小限のアルミフレームと、浮き輪やバルーンのように空気を入れて膨らませたテトラ型(三角錐)の素材を複数本束ねた形状をしている。乳白色で太陽光を柔らかく取り込むこの素材は「ETFEフィルム膜材(※)」と呼ばれ、厚さ0.25㎜、面積1㎡に対し重さ440gと、軽量な特徴を持つ建材である。
万博会場・西エリアに位置するグリーンワールド、その中でも海を臨む位置にデッキスペースが設けられ、上記の構造物3棟──「サウナ」「水風呂」「内気浴エリア」のユニットが並んで構成されている。
デザインは建築デザインスタジオ「KOMPAS」小室舞氏が考案。花びら風の空気膜クッションが集まって一つのつぼみとなり、太陽に向かって伸びていくような生命力溢れる造形をしている。

サウナ:軒高H8400×直径7500mm

水風呂:軒高H5210(プラットホームH1000+膜ユニットH4210)〜×直径3000mm

内気浴エリア:軒高H8400×直径7800mm
※ETFEフィルム:フッ素樹脂の一種であるETFEをフィルム状に圧延した高機能フッ素樹脂。柔軟にして軽量、高耐久性、透過性、防炎性能などの特徴を併せ持つ。
太陽工業/高機能フッ素樹脂ETFEフィルムの特長
◼︎大阪・関西万博における「地球共感覚」体験 |
大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開催されているが、「太陽のつぼみ」はその中において「地球共感覚」をコンセプトに据え、膜サウナを通した3つの体験を提供している。
1.サウナの温もりに包まれ、深いリラクゼーションの中で自己を解放し、本来の自分とつながること。
2.世界中の人々と共に特別な空間を体験し、文化や地域の枠を越えてつながること。
3.五感を研ぎ澄ませ、自然が織りなすさまざまな色、音、香りとの共感覚を体験し、地球とつながること。

エントランスでは様々な文化人のサインが見られる。
プログラム1回につき所要時間は90分、14人が水着に着替えてガイドが案内する11のリチュアル(儀式)形式のサウナを楽しむ。これを1日5回実施し、期間中に約10,000人が動員予定。
企画は、サウナ分野で活動する様々な著名人・研究者の協力もあり実現したが、客層はサウナ好きの間だけで話題になっているわけではなく、サウナ初心者、たまたま抽選が当たった人も多く参加しているという。
「ターゲットにおいては特定の層を狙いとしておりません。サウナは人と人を繋ぐ力があると言われています。服を脱ぎ、国籍や世代、性別に区別されない空間で自然と一体となるようなプログラムを体験いただくことで、たまたま一緒になった他人同士で連帯感が生まれます。紛争などがある世の中、サウナの中では外の世界のいざこざを忘れて繋がる体験をしていただきたいです」
「また、膜という素材は、一般的な堅いコンクリートや鉄という素材と異なり、光を透過するやわらかい空間を作り出し、外(自然)と中(人)を隔てるのではなく繋ぐことが可能です。そういった経緯から弊社の手がける膜を使用した万博初のサウナの運営に繋がりました」
(太陽工業・担当者)
◼︎「膜」構造建築物の可能性 |
「太陽のつぼみ」をプロデュースする太陽工業は、1922年創業以来、「膜」を生かした構造建築を造るプロフェッショナルである。
身近なところではいわゆる「テント」と呼ばれる簡易的な建築が想像されるが、東京ドームの屋根などが同社の手掛けた代表的な膜構造建築物にあたる。「膜」素材は耐久性や断熱性に優れるほか、光を通す素材を選べばガラスに代わる建材にもなる。

万博開催に合わせて新設された「夢洲駅」
同社は1970年大阪万博では膜構造建築物の約90%の制作に携わり、以降その技術を様々な公共施設、博覧会パビリオンなどに生かしてきた。今回開催された大阪・関西万博では、会場最寄駅の夢洲駅やパビリオンの数々に、膜構造建築物を提供している。
中でも落合陽一氏のプロデュースしたシグネチャーパビリオン「null²」は、その白眉とも言える外観が「膜」によって実現している。
このパビリオンは内部に入ると全面が鏡張りの空間になっているが、外観もまた周囲の景色を映す「ミラー膜」が張られ、内部の振動に合わせて表面が生き物のように鼓動する。板金のみでは表現しづらい曲面や振動は、柔らかく伸びる「膜」素材ならではのものである。

落合陽一氏プロデュースシグネチャーパビリオン「null²」
同社は「万博という世界の人々が集う場で、膜の可能性を追求し、世界平和にどう貢献できるか」という課題へのひとつのアンサーとして、膜で作られたサウナを提示した。
「太陽のつぼみ」は、空気を抜くとコンパクトに収納できるユニット型の躯体や移設しやすい基礎構造により、大阪・関西万博閉会後も新たな地で再構成・再利用することが可能となっている。サウナというコンテンツを楽しむ「現在」だけでなく、「その後」の廃棄物を減らすフォローもしているので、これは近年、万博が地球規模の社会課題解決を模索する場になろうとする傾向に迎合していると言えるだろう。
今回の事例ひとつとっても、膜素材はその多様な機能・特徴を、アイデア次第で様々な建築物、コンテンツへ活用できることがわかる。軽量素材である点も、近年の人手不足や運送の問題にアドバンテージを発揮する。地震大国である日本にとっては、建材が軽く柔軟であるのは願ってもいないことだ。
引き続き、「膜」の可能性とその素材が創り出す空間演出に今後も注目していきたい。