【特別企画】2025年 業界の歩みと未来 団体代表者に聞く現場の声

・一般社団法人 日本ディスプレイ業団体連合会(NDF)

会長 永田智之 氏

大阪万博開催により活気に満ちたディスプレイ業界
インバウンド需要の成長による経済の活性化にも期待

①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 大阪・関西万博の開催により、ディスプレイ業界全体が年間を通じて活気に満ちた一年となりました。博覧会の開催にあたっては、パビリオン造形や展示内装、映像制作、サイン造作、設備設置など、連合会各社が多岐にわたる分野で活躍し、活動領域を大きく広げ、世界に向けてディスプレイ業界の価値を力強く発信する機会となりました。
 また、インバウンド需要の回復に伴い、展示会をはじめとするイベント関連の来場者が増加し、出展者数も着実に伸びました。観光産業の好調も維持され、宿泊施設や商業複合施設などの関連案件も多く発生しました。
 コロナ以降、リアルなコミュニケーションの価値が再評価され、企業のエンゲージメント意識の高まりに伴い、オフィス環境の刷新が進み、ワークプレイス関連事業は好調に推移しています。一方で、建築資材や人件費の高騰により製作費が上昇し、利益の確保に苦労しました。また、人材の確保もプロジェクト推進における大きな懸念点となっており、今後の重要な対応課題となっています。会員の間では、AIの活用による業務効率化のトライアルが着実に進んでいます。法令を遵守して正しく導入することで、今後の業務変革の促進が期待されています。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 今年5月に、第57回全国大会「めっちゃ好っきやねん! OSAKA」を開催し、大阪・関西万博への動員も行いました。会員企業の中には、全社員を対象に万博研修を実施し、万博の盛況に寄与した会社もあったと聞いています。続く6月には、学生や業界の若年層を対象に、ディスプレイ業界を知ってもらう取り組みとして、NDFディスプレイセミナー「This is “DISPLAY”」を大分で開催しました。ディスプレイ振興委員会が企画・運営し、ディスプレイ業の魅力をさまざまな視点から発信しました。
 7月には、第44回ディスプレイ産業賞2025の公募を行い、一次・二次・最終審査を経て、10月に東武ホテルレバント東京で贈賞式を挙行しました。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 インバウンド需要の成長により、国内経済の活性化が期待されます。人の流動が活発になり、集客の機会が増えることで、ディスプレイ業の活躍の場もさらに広がります。また、日本の価値が世界に向けて認知されることで、事業のグローバル化が進展し、市場の拡大とともに業界活動の国際化が一層進むことが期待されます。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 「ディスプレイ業」の認知向上は、業界全体にとっての重要な課題です。人々の生活環境に密接に関わる産業であるにもかかわらず、一般的な認知度は決して高いとは言えません。「ディスプレイ業界は社会に貢献している」ということを、広く社会に発信していく必要があると考えています。
 職場環境の改善も、業界全体における重要な課題として、近年注目されています。過重労働や長時間の夜間作業といった問題には、解決に向けて検討すべき点が数多くあります。業界全体が「より働きやすく」「より魅力ある職場」へと進化できるよう、関係団体と連携しながら課題の共有と協議を重ね、共に整備を進めていきたいと考えています。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 業界の未来を担う人材の獲得は、今後の業界発展に向けた重要なミッションです。ディスプレイ業の価値や魅力を社会に広く伝えることで、働く人々が誇りを持ち、生き生きと活躍できる環境を整えていきたいと考えています。そのためには、業界全体で事業を通じて社会に貢献し、社会から必要とされる業態となることを目指す必要があります。こうした取り組みを重ねることで、業界の認知度と価値が高まり、社会的地位の確立につながります。さらに、多くの新たな人材が業界活動に参画し、未来に向けて業界全体が持続的に発展していくことを目指していきます。

■事務局:〒104-0031東京都中央区京橋3-9-4 新京橋ビル9階 ■TEL:03-5524-3101 ■FAX:03-3564-6116


・公益社団法人 日本サインデザイン協会(SDA)

会長 竹内誠 氏

AI時代におけるサインの価値と継承
サインデザインの歴史と未来に向けたアーカイブ構想
①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 今年は万博の年です。大阪万博2025の仕事で直接恩恵を受けた会員は限られていたかもしれませんが、後半の盛り上がりを見ていると、コロナ禍の影響が長引いた分、ようやく景気が出てきたという印象を、多くの会員が持っているのではないでしょうか。SDAの会員はサインにとどまらず、建築、内装、ディスプレイ、グラフィックなど、多岐にわたるデザインや施工に関わっています。そうした意味でも、あらゆるクリエイティブ分野で上向きの兆しが見えてきたように思います。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 2025年はSDA発足60周年となります。記念事業として「大サイン展」と銘打ったサインデザインの展示を2026年4月24日より5月7日(予定)まで六本木のミッドタウンデザインハブで開催いたします。他にもセミナー、シンポジウムなど開催する予定で、サインのデザインや施工に関わる人はもちろん、学生の方、行政の方、その他サインに馴染みのない方に向けて、サインが暮らしやまちづくりに役立っており、社会にとても大事なデザイン分野を担っていることを知ってもらう機会になると思っています。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 毎年開催しているサインデザインの顕彰事業「日本サインデザイン賞」では、環境を意識した作品、たとえば廃棄物からアップサイクルされた素材を使ったサインなども登場しています。また、屋外広告物については、今年開催された万博でも話題になったように、プロジェクションマッピングやドローンを使った広告も、今後は増えていくと思われます。しかし、現時点では行政側で広告物としての規制やガイドラインが整備されておらず、デジタルサイネージに加えて、こうした新たな表現も受け入れていく体制を、業界として整えていく必要があると感じています。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 人手不足という点は、業界全体にとっても悩ましい問題として認識しています。新しい人材の確保、教育、実践というプロセスに、なかなか取り組めていない現状に対するジレンマが、多くの会員から寄せられています。そのため、SDAとしては教育プログラムの充実が重要だと考えていますし、会員同士のコミュニティや、若い人たちによる情報交換・イベント企画など、積極的に参加できる場づくりが必要だと強く感じています。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 サインに関するアーカイブをまとめたいと考えています。来年のサイン展では、これまで60年にわたるSDA賞受賞作品を中心に、サインデザインの歴史を振り返る展示を行います。SDAも構成団体となっている日本デザイン団体協議会(通称DOO)では、約20年にわたり「デザインミュージアム設立研究会」という活動を行い、デザイン領域を横断して「日本の暮らしや社会に影響を与えたデザイン」を俯瞰する作業を積み重ねてきました。
 そこで見えてきたのは、50年代のネオンサインに始まり、東京オリンピックのピクトグラム、CI計画、鉄道や都市の公共サイン、JISピクト、景観ガイドライン、バリアフリー対応など、サインデザインが社会生活に欠かせないデザインジャンルとして確立されてきたということです。
 思うに、これからAIが当たり前になる社会において、さまざまな分野と関わるサインの魅力を伝える情報発信が必要ではないでしょうか。現状では、一般にサインデザインの魅力や重要性が知られておらず、学術的ジャンルとしての知名度も低く、体系的な研究も進んでいないのが残念です。サインデザインというデザイン領域が、魅力的で深い研究テーマになり得ることを意識し、まずは教育的観点からアーカイブの充実を図っていきます。そこから、これからの情報環境に適した優れたデザインネットワークが生まれることを期待しています。

■事務局:〒101-0024 東京都千代田区神田和泉町2-9 富士セルビル3F ■TEL:03-5829-9506 ■FAX:03-5829-9507


・一般社団法人 日本空間デザイン協会 (DSA)

会長 出原秀仁 氏

ホテル・商業施設・オフィス改装などの需要が好調
衰退傾向だったショーウインドウが再び注目を集める①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 昨年比で明確に好調です。市場規模は成長を維持しており、特にホテル・商業施設・オフィス改装などの受注が活発で、需要が引き続き拡大していると感じます。成長要因としては、「ホテル・大型商業施設・オフィスの新改装需要の増加」「大阪・関西万博関連プロジェクト」「インバウンド需要の回復」が挙げられます。
 近年、施主からの要望と対応業務が空間設計から体験設計・演出へと拡張しており、照明・音響・サイン計画・デジタル演出との連携を図りながら、空間全体をまとめあげる企画力と実行力がこれまでにも増して求められていると感じます。また、リアル開催の復活により、こうした空間演出系デザイナーの需要増は今後も続くと思われます。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 空間デザインが対象とする領域の認知拡大に向けて、就職活動前の大学生・専門学校生向けセミナーを実施し、デザイナー予備軍としての若年層にデザイン体験教育の機会を提供しました。また、万博を機会に「モノづくりセミナー」を地方で開催し、モノづくりと空間デザインとの連携を深め、新たな価値を創出するための連携の機会を設けました。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 2025年の空間デザイン業界は、「体験価値」「テクノロジー融合」、そして引き続き「環境意識」がキーワードとして挙げられます。成長領域は、スポーツ・エンタメ・医療・教育分野です。また、近年衰退傾向の領域として認知されていたショーウインドウは、「再定義されつつある表現媒体」として注目されており、今後の成長が見込まれます。その理由は、「単なる商品陳列から体験価値の演出へと進化していること」や「デジタル技術との融合」にあります。都市型店舗においては、「街との対話装置(会話装置)」として、建築や都市計画の文脈でも再評価されています。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 現在直面している主な課題は、「人材不足」「業務の多様化による負荷増」「デジタル対応の遅れ」「地域格差」「原材料コスト高騰への対応」です。人材不足については、美術・建築系出身者の人気は高いものの、施工・現場管理・営業などの職種は敬遠されがちです。また、ベテラン経験者の知見を若手にどのように橋渡ししていくかも、業界全体の課題となっています。
 業務の多様化に関しては、設計・施工だけでなく、テナントリーシング・コンサルティング・イベント支援など、業務領域が拡大しています。そのため、企画力・調整力・法務知識など、これまで以上に広範なスキルが求められ、そうした人材の確保やネットワークの構築が必要です。
 デジタル対応については、特に地方や中小企業では、技術導入のコストや人材面でのハードルが高い状況です。また、BIMやデジタル施工管理ツールへの対応も急務となっています。地域格差については、地域資源を活かした空間づくりが進む一方で、案件・人材・技術が都市部に集中し、地方との格差が拡大しています。原材料コストの高騰は、言うまでもありません。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 空間デザイン業界は現在、従来の「形をつくる」専門性に加えて、「意味を編む」「体験を設計する」ための多様な知性と感性を持つ人材を必要としています。これらの人材を確保するためには、対応する領域や業務内容が、一般の生活者や教育機関においてまだ十分に認知されていないという課題があります。そのため、業界の認知拡大に注力していきたいと考えています。
 また、業界はこれまで「形を創出する」という意味でのデザイナーや、モノづくりの制作技術者を主に雇用してきましたが、今後のトレンドに対応していくためには、より幅広い知識を持った人材の育成が必要だと考えています。

■事務局:〒141-0022 東京都品川区東五反田5-25-19 東京デザインセンター 5階
■TEL:03-6721-1981 ■FAX:03-6721-1980



・一般社団法人 日本商環境デザイン協会 (JCD)

理事長 窪田茂 氏

再開発進む都市で進行する経済の二極化現象
インバウンドや働き方の変化が牽引するデザイン需要①2025年の業界全体の景況感はいかがでしたか?
 現在、東京を中心に大規模な再開発が進み、巨大ビルの建設が相次いでいます。商業施設や大企業のオフィスが入 ることが多く、設計や施工の需要は増加する一方で、急激な物価高により、資本力のある企業しか出店や移転に踏み切れない状況が続いています。その結果、個性に乏しい街 並みになりがちです。とはいえ、一部のデベロッパーは、 魅力ある企業や店舗を積極的に誘致し、独自性ある街づくりを目指しています。コロナ以降、飲食やアパレル業界は業績回復が進まず、出店も停滞しています。私たちの業務にも影響が出ており、 物価高による予算との乖離が激しく、業務が長期化したり、出店を断念したりする ケースもあります。正に経済の二極化が進んでおり、誰もが安定した仕事量を確保しているとは言い難い状況です。

②業界団体として実施した取り組みをお聞かせください。
 コロナ禍を経て、社会におけるデザインの価値が変化する中、私たちはその有用性を伝えるため、さまざまな活動を展開してきました。展示会「JAPAN SHOP」では毎年JCDブースを出展し、「次世代空間デザイナー33人展 under45」や「JCDプロダクト・オブ・ザ・イヤー展」を実施しています。若手が展示やトークセッションを通じて、現代社会をどう解釈し、デザインするかを発信する貴重な場となっています。また、日本の伝統や技術を紹介する「IDM」展示への協力や、「日本空間デザイン賞」の受賞作品展示も近接ブースで行われ、デザインの連鎖が生まれ、多くの来場者を惹きつけました。
 さらに、設計料の基準が実情にそぐわない現状を踏まえ、「設計料の適正化調査」にも協力しました。今後も、設計業務の適正な評価と持続可能な業界環境の実現を目指します。

③業界内で注目されているトレンドや、成長が見込まれる領域についてお聞かせください。
 近年はインバウンドの増加によりホテル開業が相次ぎ、ラグジュアリーから民泊までデザイン需要が拡大しています。企業も人材確保を目的に魅力的なオフィスづくりを進めており、飲食では高級レストランや横丁風の店舗が多く、ここでも二極化が進んでいます。また、デザイン分野ではグリーン化が急速に進み、屋内外を連続させた心地よい空間づくりが進行中です。素材選びでも本物志向が高まり、伝統工芸などの技術を取り入れる動きが増えています。
 これらの傾向は、急速なデジタル化やコロナ禍を経て、リアルな空間の価値を再認識する流れの中で生まれたものです。リアリティや本物の質感、風や光、グリーンを感じられる空間がより求められており、今後も都市生活の快適性向上に寄与していくと考えています。

④現在、業界が直面している課題は何ですか?
 現在、物価や人件費の高騰により、設計・デザイン業務にも大きな影響が出ています。特にリターンの見込めない投資は事業化が難しく、予算調整に時間がかかることで収益も圧迫されています。施工・設計の両面で人件費が上昇している一方、それに見合う評価は十分ではありません。加えて、現場の人手不足も深刻な課題です。さらに、AIによるデザイン技術の進展も注目すべきテーマであり、効率化だけでなく、人間のクリエイティビティの価値や空間づくりにおける存在意義を見つめ直す必要があります。

⑤今後、業界団体として特に注力したい活動はありますか?
 インテリアデザイン関連の団体は小規模なものが多く、当団体も比較的規模は大きいものの、他業種と比べると小さな組織に変わりはありません。そのため、会員数の増加は今後も重要な目標です。一方で、近しい分野の団体との連携も求められており、他団体と共同で「日本空間デザイン賞」や「IDM」など、すでに協業の動きが始めています。今後はこうした連携を深め、国内外への発信力を強化することが重要です。日本のデザインには多くの魅力がありますが、情報発信の量や力はまだ十分とは言えず、そのギャップを埋めることが業界の発展につながると考えています。

■事務局:〒141-0022東京都品川区東五反田5-25-19 東京デザインセンター5F
■TEL:03-6277-4813 ■FAX:03-6277-4814

関連記事一覧