連載小説「午後の点灯式」(第31回)

その日その時②
 「明日の点灯式の話をして、水宮さんがご健在だったら、沢木田部長が主催者に声をかけて、奥さんもご一緒に、間違いなくご夫妻できっと招待したはずとお話したら、有難うございますと答えていましたが、やはりまだどこか淋しそうでした。でも本当にきれいな人ですね」
 「そう、点灯式の話をしたんだね・・・」
 「はい、奥さんを見て、水宮さんが生きていたらと、ご夫婦で招待出来ていたらと、本当にわたし思いました。奥さんは葬儀でも全く気丈で、しっかりしていましたものね。わたしが逆の立場だったらとても無理です。あんな素敵な旦那さん、あんな若さで失ったら立ち直れません」
 「まだ結婚もしてないのに、そんなこと言うな。それより、早くいい彼氏見つけろ」
 少し邪険に沢木田が言うと、かおりは、
 「頑張ります」
 と直立不動に姿勢を変え、右手で敬礼して答えた。
 「部長、明日は城川さんの晴れ舞台ですから、雑誌の方からも編集をもう一、二名同席させましょうか」
 「そうだな、でも明日から飛び石の休みで予定を組んでいるのもいるだろう。まあ、あまり無理しないように、君に任すよ」
 言いながら沢木田は席を立ち、かおりに背を向けると、とうとうその日が来たかと、一人特別な思いに浸るように窓の外の遠くに眼をやった。

 点灯式出席か紗代子との秋田行きか、いずれにせよどちらかを選ばなければならないことを十分承知しながら、沢木田は当日の土曜の朝の九時過ぎ、いつもより遅い目覚めと共に、ベッドから起き上がっても決められずにいた。点灯式の集合時間と紗代子と新宿駅の中央線のホームでの待ち合わせ時間は、同じ午後五時三十分丁度だった。新宿駅から紗代子と東京発午後六時二十分の新幹線に乗り、秋田には十時過ぎに着き、その夜は駅近くのホテルに沢木田だけが泊まり、翌日紗代子の案内で秋田市内を観光して、夕方駅から車で十五分程の彼女の家で夕食をともにしながら泊まる二泊三日の予定が組まれていた。
 紗代子と日程を約束した一週間遅れで城川の会社から点灯式の招待状と、取材依頼の電話連絡を貰いながら、沢木田はどちらを優先するわけでもなく、どの一方に断りを入れるでもなく、無為に日々を過ごし、決断を先延ばしにしていた。
 点灯式は城川の独立後の初の大きな仕事の成果として、田賀原の会社の施工によるFFシート材の大型の二面の内照式の屋上広告塔に薄暮から明かりを入れる祝いの儀式で、沢木田にとっても城川を側面から応援してきた経緯もあり、何を差し置いても出席しなければならない立場にあった。   (つづく)