連載小説「午後の点灯式」(第28回)

ニュースリリース②


 「やっと来たな」
 「部長情報より二か月遅れの発売ですけど、わたしもほっとしました。数日前にも販社の方から、本当にK社から発売されるのかって電話で言われちゃいました」
 「そうか、でもこれで書ける。次の新聞五日号、間に合うか?」
 リリースをかおりに戻しながら沢木田が言った。
 「もう入稿済みですが、印刷所に話しました。ぎりぎりですが何とか明日差し替えます。今晩中に記事にしますので、明日朝一番で見て下さい。何面で行きますか?」
 「二番手だからな。一面はむりだな。まさかK社も、水さんの会社が発表した時のように一面トップは期待していないだろう。二面トップの三段見出しで行こう」
 「そうですね、次長とも話していてその辺かなって」
 「それから、一度近いうちに大阪のK社にまた行ってくるが、担当者を決めなければならないな。志麻君以外の誰にするか、雑誌の次長とも話しておいてくれ」
 「わたしじゃ駄目なんですか?」
 自分が担当するものと思っていたかおりは声を高めた。
 「駄目だ。今度の商材だけは、水さんの社とK社の担当は、はっきり別にする。当分の間、凄まじい競合になる。うちも慎重に対応しないと、両社から恨みを買うだけだ。来週に両社への今後のうちの社としての対応を全部員にわたしから説明する。志麻君、皆の都合のよい日と時間を調整してわたしに知らせてくれ。頼んだよ」
 言うと沢木田は、リリースを一部コピーしてくれるよう、かおりに頼み、腕時計を見て座ったばかりの椅子から立ち上がり、また出かけるというよりは帰り支度をした。
 社を出ると沢木田は山手線に乗車し、車内で紗代子に新宿の紀伊国屋書店に六時前に行くが、見せたいものがあるので会えないだろうかとメールを送った。水宮と共に屋外広告業界に広めた商材の競合品が新たに発売されることを、リリースを見せながら紗代子に説明し、水宮が読んだらどんな反応で話をするのか彼女と語り合いたかった。程なく、六時を過ぎますが、行きますと返信が届いた。沢木田は紗代子に会いたい気持ちをリリースに託す思いで、彼女からの返信メールを見ていた。
 六時半過ぎ、紗代子は急いできたのか幾分顔を紅潮させ、息を荒くしながら沢木田の前に姿を現した。
 「遅れてすみません」
 「いえ、突然で驚いたでしょう」
 「はい、驚きました」
 「水さんとも関係のある事なので、急に伝えたくなって―」             (つづく)