連載小説「午後の点灯式」(第23回)

情報の守秘と開示③
 
 その数週間後、沢木田は新大阪駅に近い蕎麦料亭で、遅い昼食を兼ねながら梶村と酒を飲んでいた。
 「梶村さん、わたしが電話で伝えてから三週間が過ぎてます。もう隠せませんよ」
 「業界の狭さには、本当に呆れるね」
 「水宮君の後任も、なかなか優秀ですよ」
 「こうなったらもう、そうだなあ沢木田さんに一肌脱いでもらいますかね」
 言うと梶村は、うんうんと一人納得するように自分の考えを話し始めた。
 商材の発売は当初の計画より遅れて四月中頃になるが、そこをあえて沢木田の口から、個人的に得た情報として、K社が三月中にも新たなFFシート材の発売をするようだと、業界に話を広めてもらえないかというものだった。
 「オープンにするということですね」
 「いや、わたしの社からは公にはしません。発売日が決まるまで一切喋りません。系列の材料販社からの問い合わせにも、だんまりを決め込んで話しません。沢木田さんには悪いが、情報元、つまりわたしだが、これはウチから正式な発売発表があった後も、暫くは秘匿をお願いしたい」
 「まさか発売が四月以降に大幅にずれ込むということはないでしょうね」
 「大丈夫、約束する。貴方の顔はつぶさない。沢木田情報より、少し商品の発売が遅れるだけだ。その間、ウチは業界からの反響も取れるし、開発部にも発破がかかる」
 梶村は自信ありげに言い、沢木田の盃に酒を注いだ。
 出張前に何か分かったら直ぐに連絡すると約束したかおりの携帯に、帰りの新幹線の中からメールを送り、沢木田は久々の日本酒に酔いを感じながら東京駅まで眠った。
 社には戻らず、高円寺の駅からアパートに向かうと、かおりから携帯に電話が入って来た。
 「部長、お疲れ様です。今いいですか」
 「ああ、構わんよ。家に帰る途中だ」
 「夜分、すみません。明日直行で戸山さんと打ち合わせが入っているので、その時知らせてあげようと思いまして、部長の確認が欲しかったので・・・」
 「そうか、戸山君に話していいよ。K社が三月中にも新発売の予定と。ただ志麻君、メールしたように、情報源は秘匿中のマル秘だからな。これだけは忘れないで頼むぞ」
 「わかりました。肝に銘じて守ります」
 「まあ、ウチにとっては悪い話じゃない。また忙しくなるぞ。それと君に伝えて置くが、城さんから今朝電話があって、新宿の媒体にクライアントが決まったそうだ」
 「良かったですね。で、どこですか?」
 「何が?」
 「クライアントの業種と社名はまだ分からないのですか?」              (つづく)