連載小説「午後の点灯式」(第21回)

情報の守秘と開示①
 
 紗代子は急に打ち解けたような楽し気な微笑を浮かべると、
 「明日はお休みですね、もう暫くゆっくりしていって、料理を平らげて下さい」
 と言い、自らオープナーを持ち、慣れた手つきで器用にワインのコルクを開けた。沢木田が腕時計を見ると九時にはまだ三十分程残されていた。

 翌週の月曜、沢木田は一番に早く出社すると、先週の大阪で開かれた広告協会の新年会の記事を短くまとめ、かおりのパソコンに転送した。その後は一日中社から出ず、溜まっていた書類の整理とニュースリリースの取捨、そして二月の発刊に向けて追い込みの編集作業に入っている雑誌の特集記事に修正の指示を出すなどして、終日沢木田にしては珍しく自分の席を温めていた。
 夕方、社に戻ってきたかおりが、内々で部長の耳に入れて置きたい話があると、彼女に応接室に促されて席を立つと同時に電光広告の田賀原を訪ねていた城川から、仙台から今東京に帰ったと、沢木田の携帯に電話連絡が入ってきた。
 「結論から言うと沢木田さん、田賀原社長の協力は十分得られそうだ。尤も一千万円までの資金援助はさすがに無理だったが、その場で百万円の小切手が渡され、領収書がありませんと言うと、名刺の裏に受領の旨を認め拇印でいいと。そして東京営業所の事務所に机も空いているということで、暫く使わせてもらうことにした。それで当初の計画より早めて、二月の中旬までには独立する。沢木田さん、あんたの言う通り、田賀原さんは本当に太っ腹だね。いい人を紹介して貰った。礼を言うよ」
 「城さん、いい話で良かった。ただ、在職中の会社に不義理が無いように、その辺りは大丈夫だね」
 「心配ない。昨秋から社長と長く話し合ってのことで、お互いプラスになる方向で協力し合っていくことを確認している。ああ、それと正月に置いていった新宿歌舞伎町の媒体資料を見てくれたかい」
 「見たよ。いい媒体だ。あの媒体だったら直ぐに売れると思うね」
 「実はね、田賀原社長にも見せたんだが、その時田賀原さんの眼が一瞬ギラリと光ったんだよ。いや、驚いたね。どうも田賀原社長の会社も眼を付け、獲得に動いた節がある。わたしの勝手な推測だけど、間違いないと思うよ。あの媒体のビルオーナーの息子とわたしは同じ東京の大学で、囲碁部で一緒の仲間だった。ビル建設に着手した頃から話がついていたので、他社に取られる心配はしていなかった。わたしがあの媒体を押さえて独立することが、どうやら田賀原社長の高評価に繋がったみたいだ。あの仲間と囲碁部に感謝だね。これからまたわたしも東京が拠点になるので、暇を見つけてまた沢木田さんと碁も打ちたいね。落ち着いたらお礼の席も設けるので、その時は改めてまた連絡するよ」(つづく)