連載小説「午後の点灯式」(第18回)

二人だけの新年会②

 「そんなことおっしゃらないで、母からは稲庭うどんも沢木田さんに食べてもらってと持たされて来たんです。それにおせち料理とか沢木田さんは召し上がりました?」

 意外なことを突然聞かれて沢木田は一瞬戸惑い、返答に詰まった。

 「沢木田さん、奥様はお元気ですか、お変わりなく?」

 「ええ、元気にやってますよ」

 「水宮も嘘が下手でしたけれど、沢木田さんも同じ、下手ですね」

 「えっ・・・?」

 紗代子は小首を右にほんの僅か傾け、沢木田の眼を覗き込むようにすると、

 「わたし、知っているんです」

 と言った。

 「何をですか?」

 「沢木田さんが三鷹の家を出ていることです」

 一昨年紗代子は水宮の葬儀が済み、香典返しなど作業が一段落すると、沢木田の自宅にお礼の品として二本の白ワインを宅急便で届けたが、数日すると戻されてきた。手違いがあったのかと不審に思い沢木田の自宅に電話すると、京子から沢木田がどこに住んでいるか知らないので届けようがなく失礼したとの言葉が返ってきた。

 「それでわたし、会社の方にワインを届けに参りました。沢木田さんはその時留守でしたが。覚えていらっしゃいます?」

 「ええ、覚えています。美味しいワインでした」

 「沢木田さんが何もおっしゃらないので、わたしも黙っていました」

 「そうでしたか、そんな事があったなんて全く知りませんでした」

 「昨年の暮れ、電話で三回忌の相談に一度お目にかかりたいとわたしが申し上げた時、沢木田さんは明日の晩なら空いていると、クリスマスイブの日も忘れておっしゃいました。普通はご家族と過ごす夜ですが、わたしも独り身ですし、その言葉に従って失礼顧みずお伺いしました。沢木田さんは、わたしとお会いすると直ぐに今日はクリスマスイブでしたねと言って、却ってわたしに恐縮していました」

 沢木田は京子を絡めた自身の問題を紗代子と話す気にはなれなかった。紗代子がこの事実を知っていることを今沢木田は初めて知り、知らないでいたこれまでよりも彼は、紗代子との関わり方が難しくなることをぼんやりと考えていた。

 「沢木田さん、もっと沢山召し上がって下さい」

 「ええ、頂きますよ。本当にどれもみな美味しそうだ」

 紗代子の料理の腕前は実際相当なものだった。

 彼女は沢木田が持ってきたワインを箱から取り出し、頂きますよと、ワインとオープナーを沢木田に渡し、開けて頂けませんと言った。

(つづく)