連載小説「午後の点灯式」(第15回)

新たな競合会社①

  数分後、「来週金曜、午後六時お待ちします」と返信が届いた。

 週が変わると沢木田は紗代子との約束の日の夕方まで、入れられる仕事を入れられるだけ入れ、週の半ばには大阪での屋外広告協会の新年会に出席し、一泊して帰京したその日の午後には、上京中の田賀原に一時間だけ時間を取ってもらうと東京駅に近い事務所を訪ねた。

 「大体の話はわかった。沢木田君、城川という男の人なりを君が買っている、そういうことだね」

「そうです」

 それなら一度会おうと田賀原は言い、

 「わたしは君を信用しているが、城川と言う男の話は今初めて聞く話だ。今ここで沢木田君には何も確約できないよ。すべては、その城川君の話を聞いてからのことになる。それでいいね」

 「もちろんです」

 田賀原は鋭い眼光を緩めず、沢木田の眼を捉えたまま頷いた。

 次に沢木田が向かったのは大阪に本社を置き、帆布業界では大手K社の常務役員の梶村が待つ、神田駅に近いビルの最上階の十階に東京支店を構える受付だった。屋外広告業界での売り上げは左程のものではなかったが、テントの原反メーカーとして梶村康太は沢木田から必要に応じて業界情報を求め、年に一、二度は酒席を共にする間だった。

 通された応接室の窓に立ち、地上を見下ろすと、店舗の明かりと車道を走るヘッドライトが線条に流れて明滅している。沢木田はその光を美しいものでも見るように眺めながら、梶村が昨年末電話で午後五時以降、何時でも構わないのでとにかく顔を出して欲しいと、今日の日を指定して要件も語らず執拗に誘いの言葉をかけてきたこと考えていた。受話器を置いたあの時、沢木田の頭には直ぐに勘が働いた。そしてこれからこの応接室で語られる梶村の言葉が容易に想像できた。

 ドアがノックされ、梶村が入って来た。

 「やあ、暫くでしたね。新年早々お呼び出しして申し訳ない。沢木田さん、あんたはいつも元気そうで結構だね」

 年長者の持つ鷹揚さを梶村はいつも身に着けていた。歳は沢木田より十五は上の筈だった。

「いつぞやは大阪で大変ご馳走になりました。あの野菜が一杯入った鳥鍋今も忘れません。美味しかったです」

 「ここは東京だからあの料理はありませんが、今晩も付き合ってもらいますよ。その前に沢木田さん、あんたに是非見て貰いたいものがあるんだ」

 言うと梶村は手にしていたファイルを開き、A5判程の白色のシート状のサンプルを沢木田に渡した。勘はやはり当たっていた。

 「これは・・・」

 沢木田が言うと、梶村は表情を緩めて自信あり気に笑った。(つづく)