連載小説「午後の点灯式」(第7回)

  新製品「FFシート」 ④

 

 駅から歩いて十分程の緑の多い大通りを右に折れた閑静な一角に、真新しい二階建ての一戸建てが三件並んで建てられていた。右端の角地の家に水宮の表札が見えた。

 ドアを開けた水宮が廊下の奥に向かって、

 「はい、みえたよ!」

 と大きな声を放つと、

 「はーい」

 と言う間延びした透き通った声と共に、和服に割烹着を身に着けた水宮の妻が廊下を小走りに駈け、沢木田の前に姿を現した。

 「紗代子です。主人が大変お世話になっております」

 言うと彼女は三つ指を床について深々と頭を下げた。

 沢木田は一瞬戸惑いながら、ひどく清潔で美しい生き物が今笑顔を浮かべている、そんな思いとともに急に面映ゆさを覚え、何故か彼は今自分が着ているスーツに汚れがないかを確かめるように眼をやっていた。

 リビングのテーブルには大変なご馳走が並んでいた。

 「握りのお寿司以外は私の手作りです。沢木田さんのお口に合うと嬉しいのですが」

 彼女は台所から茶碗蒸しの器を三つお盆に乗せて持ってくると水宮の隣の椅子に座った。

 「お待たせしました。貴方始めましょう。沢木田さんに改めてお礼を言ってください。それが乾杯の音頭です」

 しっかり者の奥さんに水宮が楽しみながら尻に敷かれている日常が見えるようだった。

 料理はどれもおいしく、ビールの後には、ワインが進んだ。

 「うちのかみさんはアルコール関しては沢木田さん、わたしより強いですよ。ワインの一本位は平気です」

 「主人から沢木田さんもワインが好きだと聞いていたので、あら、わたしと同じと嬉しく思っていました」

 「沢木田さん、今晩初めて会うのに、うちのやつ、大変なファンです、沢木田さんの」

「あら、なにをおっしゃるの。貴方が一番大ファンじゃありませんか。それより貴方、沢木田さんにお渡しして」

 水宮は椅子の下に手を伸ばし、紙袋の中から外国ブランドが印刷された厚紙の長方形に包装された品物を取り出した。

 「ネクタイです。うちのやつの見立てでお礼にもならない代物ですが受け取って下さい。今度の社長賞、本来なら沢木田さんが受けるべきものです。うちの社員ではありませんが」

 「沢木田さんの話は水宮から、それはもう毎日聞いております。感謝しきれないくらいです。わたしも水宮とまったく同じ気持ちです」(つづく)