連載小説「午後の点灯式」(第6回)

新製品「FFシート」 ③

 

 沢木田は水宮に早い時間から幾度となく連絡を取り、新聞で一面トップに取り上げることを電話で伝えた。

 「早急にこの商材のブランド名を決めて下さい。決まり次第、雑誌の方で広告とは別に本文頁に新材料の使い方と看板面に仕上げていく工程を細かく写真でカット割りして、一枚一枚の写真の下にキャプションを付けて分かりやすく説明します。数頁の特集になります。午後一番に志麻という女子部員を行かせますので取材と写真撮影の段取りの打ち合わせをお願いします。それと明日の午後四時に上野駅の不忍池改札で待ち合わせしましょう。昨日話した日本全国に販売代理店を持つS社の専務と会ってもらいます」

 「承知しました。沢木田さんから朝に頂いた宿題で今頭が一杯ですが、約束の期限までには数字を出します」

 沢木田は朝の電話で商材の定価設定と販社への卸値の決定を水宮に急がせていた。

 その後は一か月近く沢木田と水宮は毎日のように顔を合わせた。水宮の手が空くと沢木田はすぐ電話で呼び出し、中堅どころの製作業者の代表や広告代理店の現場に強い営業マンに引き合わせた。城川も当然ながらその一人だった。水宮は沢木田より二年後輩だったが、鼻筋の通った高い教養を感じさせる甘い顔立ちは、業界の誰からも愛された。沢木田の会社に水宮が来た時などは、かおりも交えて女子部員の三名がじゃんけんをし、勝ったものがお茶を運ぶ役を得、水宮の近くに接することを喜びとしていた。

 沢木田の社の雑誌に三回目の広告が掲載される頃から「FFシート」と名が付いた商材は売り上げを伸ばし始めた。翌年の水宮の会社の決算月の三月に入ると、看板材料としてのアクリル板は、この新商品に市場から十五パーセントが駆逐されていた。驚異的な売り上げで販売量は上昇の一途を辿っていた。一年が過ぎた四月の新年度早々、水宮に出向先の会社から報奨金が付いた社長賞が贈られた。

 水宮は社長賞をもらった翌日に電話をかけてきた。

 「田賀原社長には今度上京した時にでも話しますが、沢木田さん、是非今週の金曜日、体をあけて下さい」

 水宮の自宅での夕食会に誘われて、西武新宿線の鷺宮駅に約束の午後六時半より少し早めに降りると、ラフな普段着姿で水宮は改札口近くに立っていた。沢木田に気づくと満面に笑みを浮かべ、今では見慣れたいつもの人なつっこい表情に変えて、

 「お呼び出してすみません」

 と言った。

 四月に入ったばかりでまだ陽が落ちると寒さが忍び寄ってくる感じだが、どの時期よりも空気が清涼に流れているようで沢木田は六月までのこの季節が一番好きだった。(つづく)