連載小説「午後の点灯式」(第5回)

新製品「FFシート」 ②

 

 「わたしもこの商材はいけると思う。うちも早速使う方向でクライアントに説明に入っている。君らは同じ年頃だ。沢木田君、水宮君に協力して君もこの材料を育てるのに力を貸してやりなさい」

 田賀原は言うと二人を誘い、事務所に近い鮨屋に一席を設けてくれた。初めは硬い表情をくずさなかった水宮も、アルコールが進むと、田賀原と沢木田の親子のような打ち解けた会話に徐々に参加してきた。

 「沢木田さん、わたしは本社の開発部から出向の身です。営業畑にはおりましたが、正直この業界の知識は殆どありません」

 「水宮君、心配するな。万事、沢木田君がうまく手配してくれるよ」

 田賀原は横にいる水宮の背をぽんと一つ平手で叩くと、柔和な眼で正面の沢木田を見て言った。

 沢木田は翌日朝一番に出社すると、水宮の商材の販路拡大へ向けての段取りに集中した。新聞部、雑誌部の両編集次長と共に志麻かおりを会議室に呼び、概略を説明し、来月五日の新聞の一面トップはこの新商品の特長と用途を中心に沢木田が記事を受

け持ち、六月発行の雑誌から見開きカラー広告が一

年間継続して出稿されることを伝えた。

 「わたしは当分の間、水宮さんと地方出張も含めて、これまで以上に外に出ることが多くなる。志麻君には暫くの間、私をサポートしてもらう」

 「部長、この新材料はとてつもなくヒットしそうですね。看板掲出後の安全面からもクライアントから多くの支持を得られると思います」

 新商品のカタログを手にしたかおりの声に、両次長も賛同するように顎を引いて頷いた。

 看板の表示面の材料は大小関わりなく、その殆どは乳白色のプラスチック(アクリル板)が使われている。大きな看板面になると使用するアクリル板も五ミリの厚さになる。

 「余り声を大きくして言う話ではないが、台風シーズンになると規定通りに取り付けてはいるが、落下しないか、アクリル板が割れて飛ばされないか心配になるね」

 こうした看板製作業者の声を沢木田はこれまで幾度となく聞いていた。それでは実際にそうした事故が過去にあったのか、沢木田は数年前に一度調べてみたことがある。数件の落下事故が地方で起きていたが、いずれも表面化することなく密かに処理されていた。

 水宮の本社が今回開発した商材は、このアクリル板に変わって看板面になる布状の全く新しい材料だった。布状ではあったが素材に強度なグラスファイバー製の繊維と塩化ビニールを使って編んだもので、屋外でも太陽光の紫外線から五年間の耐候性を保証していた。厚さ一ミリ程度の布状だけに軽さもあり、強風にさらされて破れることが万一あっても、五ミリのアクリル板が割れて飛び散ることと比べたら、安全性の高さは一目瞭然だった。(つづく)