連載小説「午後の点灯式」(第3回)

 社内新年会と訪問客 ③

 

 「なるほどね、東京本社の担当から電話があって定価からびた一文も負けてくれなかったと嘆いていたよ。沢さん、次のうちの広告、あの女史に担当させたね。まあ、あの程度の金額、別にどうってこともないが。あんたにはうちもいろいろ世話になっているから」

 沢木田は頷き、城川の紙コップに冷えた日本酒を注いだ。

 「城さん、今日は泊りだね」

 「そのつもりだ」

 「この後、ゆっくりやりましょうや」

 「でも酔う前に肝心かなめの話だけは聞いてもらわないと。そのために正月早々押しかけて来たのだからね」

 城川はカバンから一冊のファイルを取り出すと沢木田に渡した。

 「わたしが今押さえようとしている新宿の屋外広告媒体資料だ。置いていくから後で見て欲しい」

 「考えは変わってないわけだね」

 「変わってない。三月には独立しようと思っている。それで沢さん、あんたに仙台のあの会社、社長の名前は、ええと・・・」

 「電光広告の田賀原功造社長だね」

 「そう、是非お願いしたい」

 沢木田は昨年の秋頃からそれとなく城川の独立話を聞いていたが、積極的に勧めるというよりはむしろ自重を促す思いで相談に乗っていた。しかし城川の思いは日に日に固まっていくようで、そんななか十二月の初めに上京してきた城川と東京駅に近い居酒屋で酒を飲んだ。城川が東京での仕事を終え、大阪へ帰る新幹線に乗るまでの短い時間だったが、雄弁に決意を語るその声に負けるような形で沢木田は、自分が大事にしている親しい読者の一社である電光広告の社長の田賀原の話をしたのだった。過去に雑誌の裏表紙広告に穴があいた際、沢木田の助けを求める声に、いとも簡単としか表現のしようがない、あっけのない応じ方で、雑誌が発刊される前にも関わらず、一年分の広告掲載料金が前払いで振り込まれてきたことなど、田賀原の豪快な人なりと会社の規模、そして何よりも屋外広告媒体に精通していることでは人後に落ちない業界人であることを沢木田は城川に語ったのだ。そして独立するなら電光広告から出資が得られるくらいでなければ成功は難しいと言葉を向けると、一瞬城川の眼がその時、心持ちキラリと光ったように沢木田の眼に映った。

 今眼の前で巻き寿司をほおばりながら日本酒を飲んでいる城川は屈託がなかった。沢木田も今では城川の独立に応援する気持ちに傾いている。

 「沢木田さん、できるだけ早く田賀原さんへの紹介を頼みたい」

 「今月の中旬に上京してくることを秘書から聞いている。何とか会えるようにして話してみます。それまでに事業計画だけは城さん、しっかり文章化しておいて下さい」(つづく)