連載小説「午後の点灯式」(第1回)

 サイン業界に長年携わってきた龍氏による連載小説「午後の点灯式」は、新製品を巡る専門紙内部の活動や、主人公と取引先関係会社の人間模様を描きます。物語はフィクションです。

 

主な登場人物

沢木田徹(主人公)……屋外広告業界出版社の取締役編集部長

志摩かおり…………………沢木田の部下。女性の中で一番年長の編集部員

城川道夫……………………東宣興業(大阪)の取締役営業部長

田賀原功造…………………電光広告(仙台)の社長

水宮雅之……………………大手材料メーカー子会社の部長

紗代子………………………水宮の妻

 

社内新年会と訪問客 ①

    正月が明けたら詳しく話を聞くと約束していた城川道夫が、大阪の昆布の佃煮を手土産に沢木田徹の職場に姿を現したのは、歳暮に貰った缶ビールや日本酒に、寿司などの出前を取り、全社員が社内で内輪の新年会を始めたばかりの五日の夕刻だった。

 沢木田は編集部員を中心に営業や経理を含め十五名が集まり、会話を弾ませている会議室のテーブルに飲みかけの紙コップを置くと、若い女子部員に二人分の酒とつまみを応接室に用意するように命じ席を立った。

 応接室には城川が新調したスーツ姿で沢木田を待っていた。

 「こんな時間にすまなかった。迷惑でなかったかい?」

 城川は太目の身体をソファーから立ち上げ、濃い眉の下のドングリ眼に笑いをにじませて言った。

 「いや、城さん、今日でよかったよ。明日から数日は挨拶回りや来客の予定が多くて、殆ど自由にならない。とりあえずここで軽く一杯やりながら、話を聞いた後でまた社の近くで―」

 沢木田は自分よりも五歳ほど年上の城川とは妙にうまがあった。同じ北海道生まれということもあったが、それだけではない城川の持つ独特の朴訥さに沢木田は、会う度いつしか気の休まるのを知った。今では年に何回かは酒席を共にする仲で、以来十年近い付き合いが続いている。

 「心斎橋の屋上広告塔の記事、大きく新聞に取り上げてもらってありがとう」

 「次の雑誌にあの広告塔の見開きのカラーの記事

広告を契約頂いた。こちらこそ感謝です」

 沢木田の会社は屋外広告業界専門の旬刊新聞と隔月刊の雑誌を発刊し、その購読料と広告料が主たる収入源だった。沢木田の名刺に取締役編集部長の肩書が付いたのは三十三の歳を数えた二年前である。若く早く社長に次ぐナンバー2への就任には理由があった。新聞部の編集部長の期間に雑誌の広告営業にも自ら猛烈な勢いで動き、それまで一号当たりの広告収入が三百万円前後だったものが、半年が過ぎた頃には五百万円を超え、一年後には八百万円まで伸ばしていた。その頃には新聞部の責任者でありながら、広告収入をさらに上げるため雑誌部の編集企画にも強く意見を言える立場になっていた。新聞は大判の四面だと六十段、一回の発刊で掲載できる最大の広告段数は三十段までだ。第三種郵便法に従い記事量の半分までしか広告を入れられないのである。新聞の広告を増やすには紙面も増やさなければならない。業界専門の零細新聞社に記者を増員する余裕などあるはずもなく、新年と暑中特集号での名刺広告を多数取っての増頁以外では四頁が限界だった。雑誌には制約がなく営業次第で全面広告を何頁でも入れられるのである。会社の売り上げを伸ばすには、雑誌の広告を増やすしかなかった。沢木田の営業活動は業界の黎明期と呼応するかのように一つひとつ着実に実を結んでいった。(つづく)